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2009/08/15 (Sat) 08:43
Knight of peace 壱章(3)

始めから

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「助かったー。マック、ありがとう」
 お偉いさまご一行を見送って、マリアが口を開いた。
「いや、別にオレは何も」
「マック、あんな偉い人相手に落ち着いて話せるなんて凄いです」
「そう……なのか?」
「うん。普通は出来ないですよ」
「ふうん」
 という事は、自分は普通ではないのか。記憶を取り戻せば、普通になれるだろうか。
「さ、行きましょう。席がなくなってしまいます」
「あ、ああ」
 マリアに引かれ、二人は旅芸人一座『夢見草』の天幕を目指した。マックはもう一度だけ振り返って、お偉いさまご一行の後ろ姿を見た。
「あの感じ……。何だったんだ?」
「どうしたの?」
「いや、別に」
 今は止めよう。今はマリアと祭りを楽しむのだ。そう考えて、マックは自分が感じた既視感を頭の中から追い出そうとした。

 旅芸人一座『夢見草』は、前評判どおり素晴らしい物だった。トップスターから、道化まで、一座の全員が生き生きと輝いていた。観客たちは、夢の中にいるような感覚さえ覚えていた。たった一人を除けば……。

――何だったんだ。あの感じは……。

 彼だけは、楽しんではいなかった。正確には、一座の芸など見てはいなかった。
「どうかしましたか? マック」
 マリアが尋ねるも、彼は無理に笑って、軽く首を振るだけだった。

「マック、もしかして、楽しくなかったですか?」
 天幕から出て、開口一番マリアが尋ねた。立ち止まったマックの脇を、いまだ夢から覚めぬ表情の観客たちがすり抜けていく。
「いや……。楽しくなかった訳じゃない」
 マックはそう言って、黙ってしまった。マリアが楽しみにしていた事は知っていたし、見てなかったなどと言いたくはない。
「そう……ですか」
 マックが黙ったのを見て、マリアも黙る。両者の間に気まずい空気が流れた。
「あ……、そうだ!」
 先に口を開いたのはマリアだった。
「私、マックに渡したい物があったんでした!」
「渡したいもの? オレに?」
「すぐ取って来ます! だから、ここで待っていてください!」
 そう言って、慌てて駆けて行った。その後ろ姿をマックは見送る。
「……まずい事、言ったかな」
 そう呟いて、既視感を忘れようとした。今度こそ、徹底的に記憶から排除しようとした。しかし、彼の思惑とは裏腹に、既視感は強まる一方だった。それどころか、別のイメージが頭をよぎる。それは、形として認識できない、靄がかかったようなイメージだが、どうしてもその先にあるものへの好奇心を抑えきれない。その好奇心の先にあるものを知れば、もう二度と今の生活に戻れないかもしれない。そのことは分かっていた。分かっていて尚、彼は悩んでいた。悩んでいる内に、時間ばかり過ぎていった……。

「きゃあ!」
 突然聞こえた悲鳴で、彼の意識は、現実世界に引き戻された。同時に、今までの悩みも吹き飛ぶ。
「今の声……。マリア?」

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2009/08/15 (Sat) 08:38
Knight of peace 壱章(2)

始めから

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 祭りの日、マックと呼ばれた少年は、マリアに引っ張られつつあぜ道を歩いていた。いつもは静か過ぎるくらい静かな村だが、祭りの日だけは別だ。
「騒がしいな、やっぱり」
「そうですね。みんなお祭りを楽しみにしてるから」
「いや、それはオレにも理解できる。でも、3年前も2年前も1年前も、こんなには騒がしくなかった。オッと……」
 そう言いつつ、向こうから来た家族とすれ違う。片足があぜ道から落ちてしまう。
「何で、こんなに人がいるんだ……?」
 周りを見回すと、視界に入るのは人人人……。田舎のあぜ道が、都会の道路みたいになっている。
「今年は盛大にやるって言ってましたよ」
「何でまた……?」
「えっと……ほら、アレ」
 マリアの指さす先に、大きな天幕があった。祭りの前まではなかったやつだ。
「旅芸人の一座がこの村の近くを通るって聞いて、村長さんが頼んだらしいですよ。祭りに来てくれないかって」
「旅芸人?」
「結構有名ですよ。『夢見草』って言うんですけど、聞いたことないですか……。あ、ごめんなさい」
 マリアは、マックが3年以前の記憶を失っていることを思い出し、慌てて謝った。
「気にしてない。それで、その旅芸人が来るから、こんなに人が来てるのか」
「そうだと思います。村長さんたち、村おこしとか言って、町でチラシ配ってたから」
「……」
 商魂逞しいとマックは思った。そして呆れた。自分たちが芸を見せるならともかく、旅芸人たちが去った後はどうするつもりなのだろうと。
「あ、あの、マック。やっぱり、さっきの事、怒ってる……?」
 黙っているマックを見て、マリアは何か勘違いしているらしい。
「だから、気にしてないって言っただろ」
「でも……。あ!」
「……何?」
「あそこ、軍隊の兵士……かな? 初めて見ます」
「軍隊?」
 マリアの視線を追ったマックも気付いた。3、4人くらい歩いてくる。その後ろに、高そうな服を着た、いかにも身分の高そうな男が歩いている。
「あの紋章……竜?」
 マックは呟いた。初めて見るはずなのに、以前見た事があるような軽い既視感。
「……何だ? この感じ……」
「オイ、そこの二人」
 前を行く兵士が声をかけてきた。
「な、何でございますでしょうか?」
 マリアが慌てた。マックは、声をかけられたことに今気付いた。
「食事を摂れる場所はどこだ」
「食事……でございますでしょうか?」
「食事なら村の広場で出店をやってます。広場はこの道を真っ直ぐです」
 うろたえるマリアを見かねて、マックは助け舟を出した。これ以上、この連中と関わり合いたくない。
「そうか」
そう言うと、礼も無しに一行は去って行った。

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2009/08/15 (Sat) 08:33
Knight of peace 壱章(1)

始めから

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壱章 記憶

 辺り一面、森に囲まれた小さな村。その村の細いあぜ道を、一人の少年が歩いていた。年齢は10代半ばを少し超えたくらい、手に畑仕事で使う道具を持っていた。
「マックー」
 背後からの呼び声に、その少年は振り返った。少年と同じ年頃の少女が走ってくる。
「何か用か? マリア」
 マックと呼ばれた少年は、駆け寄って来た少女の名前を呼んだ。
「うん。今年のお祭りは盛大に行うそうですよ」
 重大な話でもあるのかと思っていたマックは、拍子抜けた。ガックリと肩を落とす。
「……そんな事で、あんなに走ってきたのか?」
「村長さんたちがそう言っていたんです。早くマックに伝えたくて」
「ああ……まぁ、わかった。ありがとう」
「それでは、私は仕事が残っているので」
 そう言い残して、来た時とは打って変わって、のんびりした足取りでマリアは戻って行った。
「やれやれ……。普段あんなに大人しいのに、どこにあれほどのエネルギーがあるんだ……?」
 マックは、年頃の少女がバタバタと慌しく向かって来た光景を思い出した。正直、あまり褒められた物じゃないなと心の中で呟く。でも、気持ちは何となく分かる。
「……祭り、マリアと一緒に参加しなきゃダメだろうな」

 マックは、村はずれにある自分の家に戻った。大きくはないが、村の人たちの好意で貸してもらっていた。
「ふう」
 畑仕事の道具を片付け、一息ついていたマックの視界に、何かがキラリと光った。
「……」
 それは、壁に掛けてある剣の刃だった。刃を潰した練習用である上に、真ん中から真っ二つに折れていた。上半分のない剣を見て、マックは溜め息をついた。
「……3年前、オレはこの剣と一緒に、この村に来た」
 誰に話しかける訳でもない。強いて言うなら、彼は剣に話しかけていた。
「オレは一体、何者なんだろう? マックという名前で過ごしてはいるけど、本当の名前があるはずなんだ……。あの剣は、本当のオレを知っている。でも、剣に聞く訳にはいかないよな」
 そもそも、剣は話せないしな。彼が自嘲気味な笑みを浮かべていると、扉をノックする音が聞こえてきた。
「はい。誰ですか?」
 聞いてはみるが、誰かは分かる。こんな村はずれに尋ねてくる相手は一人しかいない。
「私です。マリア」
「やっぱり。どうぞ」
そう言って彼女を家に入れた。3年前、村に来たばかりの頃は、マリアの家で寝泊りしていた。しかし、さすがにマズイだろうと、ここに移ったのだ。それでもマリアは、毎日やって来ては何かと世話を焼いてくれていた。
「今日は、ジャガイモとニンジンのシチューを作ってきました。夕ご飯にどうぞ」
「ああ。ありがとう」
 マックは鍋を受け取ったが、マリアは何か期待するように、彼を見つめていた。
「……よかったら、一緒にどうだ?」
 マックは、彼女が言って欲しい言葉を口にした。マリアは嬉しそうに微笑むと、先程渡した鍋を持って、暖炉で暖め始めた。その様子を、マックは静かに見守った。マリアが自分に寄せている気持ちを理解できない訳ではない。それに、彼自身も、満更ではないことは気付いていた。
「……まぁ、この帝国の片田舎で、新たな人生を歩むってのも、いいかもな」
 マックは、壁の剣から目を逸らして呟いた。鍋をかき混ぜるマリアには、その声は聞こえなかった。

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2009/02/07 (Sat) 17:26
Knight of peace 間章

始めから

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 その日、マリアはいつも通り川へと向かった。洗濯籠を抱えつつ、いつもの場所に向かった。ただ、この日は、何だかいつもと違った。上流にある王国の空が、何やら騒がしい。
「何か、あったのかしら?」
 そう呟いたが、こんな田舎町まで、情報が来るなんてまずないだろう。だから、気にしないことにした。いつもと変わらない、日常生活が始まるだけだ。そう思っていた。
「さて……。あら?」
 洗濯を始めようとした、マリアの手が止まった。見慣れないものが、河辺に流れ着いている。
「キャア!」
 人だ。年は、自分と同じくらい。おそらく10代半ば。青い髪の下に覗く表情は、苦しそうだった。
「ね、ねぇ! あなた、大丈夫!?」
 マリアは、その人物を激しく揺り動かした。さすがに気にしない訳にはいかない。
「う……」
 マリアの起こし方が、相当効いたのか、その人物は目を覚ました。そして、目の前にいるマリアの姿を認識した。
「あ、気がついた? ねぇ、大丈夫? あなた、どこから来たの?」
「どこから……」
「分からないの? じゃあ、名前は?」
「名前……」
 その人物は、しばらく考える素振りを見せた。そして、静かに言った。
「……わからない。何も……。自分がどこから来たのか……。どこの、誰なのか……」
 淡々と語ったその言葉に、マリアは驚きで声も出なかった。だが、とりあえず何をすべきかは、気付いたらしい。
「とりあえず、家に来て。濡れたままじゃ、風邪をひきますよ」
 そう言ってマリアは、見ず知らずの少年を家へと連れて帰った。

 そして、月日は流れ――。


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2009/02/07 (Sat) 17:20
Knight of peace 序章(11)

始めから

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「……ごめん、ピース。オレがいながら、お前にこんな怪我させてしまって……」
 ぽつりと漏らした一言に、ピースは、スレイの肩をギュッと掴んだ。何で謝るのか、その理由が分からない。
「……そういうの、言わない約束だよね?」
「そう……だったか?」
「うん」
 まったく、このスレイという人物は、変な所で堅苦しい。だが、それでも、自分に敬語を使わない相手であるため、ピースにとっては、気楽に付き合える相手だ。
「ねぇ、スレイ」
「何だ? あまり余計な事喋って、体力消費するなよ」
「父上……。この通路、使わなかったんだね」
「……まぁ、そうなるな。自分が使うと、敵にも気付かれる。そうなると、ピースの逃げ道が1つ減ってしまう。それを、恐れたんだろうな」
「……そうかな?」
「ああ。立派な方だよ。お前の父上は」
 でも、もういない。そのことを信じられないほど、ピースもスレイも子どもではない。
「何で、こんな事になったのかな?」
「何でって……」
 答えに詰まるスレイだが、ピース自身も、答えを期待した訳でもない。
「ボク達、帝国に何か悪い事、したかな? してないよね?」
「……ああ」
「スレイ。もし……もしだけどね」
「?」
「誰も争わないですむ世界があれば、いいと思わない?」
「そりゃ、まぁ。でも、お前には、そんな世界を作るだけの力はあるだろ? 王族なんだから、自分の思い通りの世界を作れるだろ」
「そうだよね。でも、王族ってだけじゃ、国は作れないよ」
「その通りだろうな」
「スレイが、リンダさんが、他のたくさんの人がいてくれるなら、そんな世界も作れるよね」
「ああ」
「それ聞いて、安心した」
「?」

 恐る恐る振り返ったスレイを、ピースは突き飛ばした。

「な、何を……!」
 派手な水しぶきを上げて、水路に落ちたスレイは、ピースを見上げた。そして、気付いた。遠くから、大勢の足音が聞こえる。段々近付いてくる。
「……! もう、追いついてきたのか!?」
 流れはかなり速い。体力の消耗は激しいが、まず追いつけないだろう。追っ手に気付いていたピースは、そのことも計算に入れていた。そんなピースの計算を、スレイは理解した。
「ピース! 早く!」
 少しずつ、ピースが遠ざかる。飛び込む気配はない。
「おい!」
「ごめん、スレイ。ボクが着いて行けば、追っ手は絶対来る。スレイを死なせたくない」
「ば、馬鹿! オレなんかよりお前の方が……!」
 あとは、言葉にならなかった。流れが激しさを増し、沈まないようにするのが精一杯なのだ。スレイの脳内では、自分を突き飛ばしたピースの表情と、ピースの言葉だけが、グルグルと、走馬灯の様に回っていた――。

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